月は見ていた






窓から入り込んでくる、ひんやりとした風で目が覚めた。
携帯を見てみると、時刻は日付が変わる少し前。どうりで暗いはずだ。
いつもの癖で新着メールをチェックする。8件。みんなブログとかリアルとか更新しすぎだよ。更新通知以外はメルマガなんだろうな、特に期待も何もなくチェックしていると、珍しい名前があった。
どくん、と大きく心臓が跳ねる。


From.本田さん
Sub.今夜は
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月が綺麗ですね。
窓の外をご覧になってみてください。


メールがきていたのは10分前。携帯見といてよかった、どきどきと高鳴る胸をおさえながら窓辺に立った。
あ、すごい、綺麗。
夜風を浴びながら返信を打つ。


To.本田さん
Sub.Re:今夜は
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ほんとだ、すごくキレイですね!
本田さんも窓から月見してるんですか?


もしそうだったら、おそろいだなあ。
なんだか暖かい気持ちになるのを感じながら外を見ていると、道に見知った影が見えた気がして。コンタクトをする暇もないのであわてて眼鏡をかける。

「…なまえさーん」

外灯も少ない暗い道に、今さっきメールを送った彼が立っていて。あり得ない事態に心臓が急稼働を始めた。

「本田さん、もう夜遅いのに、どうしてそこにいるんですか…!」

できるだけ近所迷惑にならないような声量で問いかける。2階の窓からの声なんて、相当聞こえにくいだろう。
けれど、彼は優しく笑って、メールの文面をもう一度口にした。

「月が綺麗ですね、なまえ」




─月は見ていた─

私がその言葉の意味を知ったのは、数日後だった。




2011.05.23

ラブレターの日ときいて

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