ぎゅう、と抱きしめられている腕に力が入った。 嗅ぎなれた香水が鼻先をくすぐって、つんと鼻の奥が痛んだ。
「なまえ、好きだ」 「…っ、わかってるよ…!」 「好きだよ」
優しい声が愛を囁く。これだって、これが最後なのだ。 ばいばい、声が震えたけれど、上手く笑えた、だろうか。 恐る恐る見上げると、彼は思ったよりもずっと優しい表情をしていて。 完全に力が抜けていた目尻から一滴、雫が伝った。 一滴零れたらもう止めることができずにぼろぼろと涙が落ちた。
「何泣いてんだよ」
ばかだな、お前。 ずっと手をつないできた少し不器用な長い指が涙を掬う。
「…ばか、なのはあんただよ」 「知ってる。泣かせてごめんな」
愛してる。 目尻にキスされて、更に涙が溢れた。 本当にばかだ、こんなに、こんなにも好きなのに。愛し合ってるのに。 涙やら何やらでぐちゃぐちゃになっているであろう顔にへたくそな笑顔を貼り付ける。
「さよなら、」 「ああ、幸せになれよ」
そう言って無理やりに笑ってみせた彼は、どこまでも私が愛した彼だった。
―さよなら、さよなら―
(今までありがとう、好きだよ)
2011.04.23
|