口パク






声が出なくなった。
あんたのせいだ、絵文字も顔文字もない不機嫌丸出しのメールを受信したのが午前中のことで。
慌てて来てみたはいいものの、今日の彼女は冗談抜きで機嫌が悪いらしい。

「風邪でもひいたのかよ?」

ソファに座って猫を撫でていた彼女が激しく首を横に振る。
風邪ではないのなら何なんだ。
考えを巡らせていると、突然差し出されるスケッチブック。
小さいけれど整った文字が並んでいる。

「昨日は空気が乾燥してて、それなのに激しかったから…って、」

俺のせいなのかよ。
こくこくと頷いているなまえが視界の端に見える。

「ケーキも用意して、準備万端なのに声が出なかったら意味がな…ん?」

ケーキ?
自然と眉間に皺が寄る。
何のことかわからずに唸る目の前で、彼女はぱくぱくと口を動かした。




─口パク─


(あ、ん、ちょ、び?痛っ!叩くことねぇだろーが!)
(…た、…じょ…っ!)
(たじょ?)
(…〜〜!)


2010.03.18
伊誕生日SS。
アンチョビと言わせたかっただけ。


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