ひきこもりとB






その後わかったことといえば、彼女の名前がなまえというらしいこと。
たったそれだけ。どんな目的のソフトなのかも、全くわからなかった。

「説明書、ついてないんですか」
「ついてても読めないと思うけどね」

だって雨の中拾ってきたんでしょ?ふやけてるに決まってる。
決め付けたような言い振りは、彼女の癖なのだろうか。自分に比べて大分強気な態度に、苦笑する。
目的もわからない謎の存在と話す自分は、はたから見ると頭がおかしいと思われても仕方がないだろう。
でも、だからこそ、なんだか安心して話せる気がした。

「私、ひきこもりなんです」
「だろうね」

目を見ればわかるよ。
画面の中の彼女が、真っ直ぐに自分の目を見たような気がして、俯く。
一応、そうなった理由でも聞こうかな。
まるで感情が伴った人間のように静かな声。画面には、視線を少しだけずらした彼女。

「いじめられてたんです」

きっかけは本当に些細なことだった。背が小さくて暗かったから。いじめたって何も反抗しなさそうだから。
だから、目をつけられた。
はじめは、ほんの数人の人間に、あいさつを無視される程度だった。けれど、何も言わない自分に対してのそれはエスカレートしていって。
気がつけばひとりだった。話しかけられることもなく、こちらに向けて放たれる悪意が、苦しかった。歩けばすれ違う人間が皆自分を嫌っているような気さえした。それを悲しいと言える相手もいなかった。ひとりでも大丈夫だと言い聞かせていたけれど、それは耐え切れないほどに、辛かった。

「…逃げたんです」
「そっか」
「こわく、なっちゃって」
「情けない笑い方しないでくれる?」

泣きたいのなら泣けばいいじゃない。あんたは人間なんだから。
ぷつ、と画面が閉じられて、鼻の奥が痛む。機械は正直だ。本当に0か1かしかない。

「そんなことできたら、苦労しませんよ」

努力もしてないくせに。とまだ出会って間もない彼女がせせら笑ったような気がした。




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ひきこもりの理由と機械。


2014.06.08

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