月は太陽を嫌った 愛されようとも





私は、隣に座る男が大嫌いだ。なんだかふにゃふにゃしていて掴みどころがないし、他校の不良と仲がいいだとか喧嘩に明け暮れていただとか嫌な噂も聞く。できることならあまり関わらないで欲しいところだが、最近やたらと視線を感じる。不愉快極まりない。私は平穏な学校生活を送りたいのに。

「今日天気ええし、眠くなりそうやんな」
「ふうん」

眠いなら寝ればいいじゃない。話しかけてくる意味がわからない。
机の中に教科書を入れながらさりげなく机を離す。昨日の掃除当番誰よ。こんなに近づけないでくれるかな。
そうこうしているうちに担任も来てホームルームが始まった。今日は席替えらしい。文句を言うクラスメイトたちには悪いけれど、私は大歓迎だ。やっとこの男の隣なら離れられる。

「残念やわー」

俺、この席結構好きやってん。
ふにゃ、と笑う彼から目を逸らす。こういうところが嫌いだ。わけがわからない。
クラス委員がくじを配りにくる。適当にひいた数字は21。真ん中あたりの配置だろうか。

「9…微妙な数字やなー…」

ぼやく声を聞きながら小さくガッツポーズをする。倍以上数が違う。これは大分席が離れそうだ。
黒板を見て、くじをひいたのに何故かランダム配置の席に惑わされながら机を動かす。窓側の一番後ろ。席が離れた上にこんなにいいところなんて、運を使い切ってしまったみたいだ。
それより、新しい隣の席の人に挨拶しておかないと。

「…え」
「また隣なんて嬉しいわあ。よろしく」

奴の手元の紙には、6の文字。紛らわしい読み間違いをしていたらしい。信じられない。
縋るように黒板を見るが、担任の濃い文字は非情にも21と6を並べて書いていた。前言撤回だ。この席はまずい。どこにもずらせないもの。
騒ぎすぎるなよ、と笑いながら言う担任の声が愕然とする私の耳を右から左へと通り抜けていった。




ー月は太陽を嫌った 愛されようともー

(ああ、明日からどうしよう)

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