俺のキモチ





「銀ちゃーん」
「んだようるせーな」

隣で甘えたように俺の名を呼ぶ彼女を冷たくあしらう。
それは決して、彼女のことを嫌っているからとかではない。
むしろ、その逆で。
好きだからこそ、離れて欲しくなくて。
彼女を留めるために、冷たくあしらう。

「そんなに意地悪いとどっか行っちゃうよ?」

拗ねたように言う彼女に目を向け、追い払うように手を振る。

「あー、行けよ。どこにでも行け」
「え…」

俺にとっては、いつもの日常の1コマでしかなかったのに。
いつもみたいに、
銀ちゃんひどーい
とかふざけた口調で言ってくると思ったのに。
彼女の反応は、予想外だった。

「ひどい、よ…銀ちゃん…」
「あん?…って、お前っ…!」

彼女の表情で、血の気が一気に引いた。
八の字になった眉。
もう、零れ落ちてしまうのではないかと思うくらいの涙に。
本当は辛いだろう。
それなのに無理して笑っている彼女に。

やりすぎた、
そう思ったときはもう遅かった。

「ひど、い…っ!」

俺が手を差し伸べようとしたときには、既に彼女はぽろぽろと大粒の涙を流していて。

「………っく…」

普段彼女に優しく接していない分、どうしたらいいかわからなくて。
やり場のない感情に、拳を握り締める。
悪かった、
ごめん、
たった一言でいいのに、言えなくて。
好きな女が目の前で泣いてるってのに、何もできなくて。

「私は…銀、ちゃんっ…好き、なのに…!」

ひくひくとしゃくり上げる彼女に、どうしようもない感情を抱いて。

「…なぁ、」

俺も好きだよ、
なんて甘い言葉、俺にも言えたらよかったのに。
言いたいのに。
くだらないプライドにやられて、そんなことも言えない。

好きなんだよ。
俺だって、お前が。




─俺のキモチ─


(だからもう少しだけでも)
(俺のことを好きでいてくれ)



2008.05.04

2010.02.01 修正
愛理さまへ!


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