『ねぇ、洋二。深海魚って、暗い深海で一人じゃない?何を考えてるのかしらね』 質問・とゆうには意味の分からない突然の彼女のつぶやきは、なぜか俺の胸にすんなりと入ってきた。 「さぁ、魚の気持ちなんて考えたことも無いからな」 と、俺は思ったことをそのまま口にした。 『東京に出てきた時ね、東京の街が深海みたいに思えたの』 彼女はこうやって、時々詩的な言葉を吐く。 『ビルの隙間から見た空がやけに高くて、その時知り合いなんて一人もいなかったから、ああ・深海魚ってこんな気持ちなのかなって、考えたのよ』 空が海で、深海魚が自分。 『でも、こうして洋二に会えたんだから、良かったわ』 そういって微笑み、俺の隣に腰掛ける。 世界には何十億という人間がいるのだ。 俺たちが出会えた確率は、まさに奇跡。 深海魚に負けずとも劣らない確率だと思う。 「そうだな」 隣の彼女の手を握る。 ちらっと横目で見ると、頬が赤くなってるのが見て取れた。 『洋二の手って、あったかいよね。なんか夕暮れ時の太陽みたい』 ほら、また、君は口からきれいな言葉を吐く。 ここが深海だったら、きっと美しい泡になっていただろう。 繋いでいた手を解き、俺は彼女の頬に手を添えると、きれいな言葉を紡ぐ唇にそっとキスを落とした。 深海魚がみつけた夕暮れ −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 熊田さん企画「さんざめく」様に提出させてい頂きました。 BGMはサカナクションの『シーラカンスと僕』です。 熊さんまじクールビューティーすぎる・・・。 |