1

覇王セフィリス・サラヴァン



 少年は、幼い頃から、男が怖かった。女は嫌いだった。それでも、我慢していた。
 少年は、命が危険だからといって、自分を部屋に閉じ込める母親は嫌いだった。しかし、少年の中で、母親は女ではなかった。男は皆悪い奴で、女は穢らわしいと思っていたが、母親だけは違った。
 しかし、見てしまったのだ。心の底から恐怖を感じた。知っていたからだ。母の胸元に見える赤い痕と、苦痛の混じった嬌声で、言い表しようの無い痛みと屈辱感を思い出した。それは、おそらく、目の前で起こったこと以上の強さを持っていた。
「シュウ、この国は滅びるわ」
 黒い綺麗な瞳は、気味の悪い涙で濡れていた。
「だから、遠くへ逃げてね」
 死にゆく母親は微笑んだ。しかし、小さな少年は、その女が、母親には見えなかった。ただ、走り続けていた。少年は、世界から逃げたいと思った。しかし、どこまでも世界は続いていた。
 少年は大人になってから、母親は、あの時、自分など目に入っていなかった、と思うようになった。しかし、少年は、認められぬ罪悪感に苛まれ続けていた。そして、果て無き世界を、今も走り続けている。
 「神に最も近い存在」として生まれたのに関わらず、手を差し伸べる者は、一人もいない。少年は救われない存在だった。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -