1

堕ちた光、至高の闇


 シュウは、それから何も尋ねなかった。リーファにとっては、その方が好都合だった。
 大聖堂は、薄暗かった。紅い光が燈り、真っ暗というわけではなかった。しかし、その生暖かさが、不気味さを際立たせていた。
 リーファは誰もいない大聖堂の中に入ると、祭壇のタペストリーに手をかけた。リーファは、シュウの姿を視界に映さないようにしながら、ただ、目的の物だけを見るように意識をした。
 美しい神を描いたタペストリー。リーファが僅かに力を入れるだけで、それは呆気なく剥がれ、薄らと明かりが燈っていた聖堂の中に眩い光が差し込んだ。
 タペストリーの奥に会ったのは壁ではなかった。それは、天空に続く階段。青白い空に向かって伸びる白銀の美しい階段。
 リーファは、登ろうとしたが、その必要はなかった。
 目的の男は、呼び出さずともそこにいた。白銀の細い髪を結い、鮮やかな青の瞳を持つ美しい男が、階段を降りてきた。怜悧な笑みを浮かべ、まるでリーファを待っていたかのように微笑む。
「そういえば、女聖騎士を、覇王が無理矢理転生させていましたね」
 男は聖堂の中には入らず、天空に続く階段に留まっていた。硝子のような声に、僅かな笑みを含め、超越者の余裕を見せる。
「覇王と共に御登場とは、何かあったのですか? バルベロ」
 そう言って、リーファの方に、慈愛など欠片もない麗眸を向ける。
「覇王と共に、エイスの村に生まれた女、バルベロ。最下層に突き落とされた覇王の影」
 歌うような軽い口調。それは、無機質な響きを持っていた。まるで、硝子の鈴のような声だった。
 リーファは、自らを落ち着かせるようにゆっくりと息を吐いた。
「私にも前世の記憶があり、前世の私は、エイスの町で生まれた」
 この男のせいだろうか。リーファは、自分の声が、酷く熱く思えた。
「前世の私の名は、セイリア。若葉という意味を持っていた」
 気持ちが高ぶっている所為だろう。リーファは、ぐらりと頭が揺れる感覚がした。しかし、口から発せられるは、人間の声。それは、この男の前では、最大の弱みにして、最大の武器。漸く、リーファはそれを思い出したのだ。
「しかし、皆、前世の私のことを、セイリアと呼ばなかった」
 リーファは嘲笑った。目の前の白銀を。破壊と想像を超越したが故に、多くの物を失った神を。リーファは、その発言の威力を知っているからこそ、重い何かをかき回すような声を流す。
「セフィリス・サラヴァン」
 シュウの、何かを押し殺したような声と、リーファの声が重なった。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -