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シャーナの理由
リーファ・シャーナ・シュライゼ。
隠し事をしているわけでもなく、妙に人間嫌いなわけでもなく、そうかと言って、愛想が良い方でもない。特筆すべき点はないのに、普通とは言い切れない魔術師。
のこのこと部屋を出て行く背を見送ると、シュウは天井に目を向けた。
品の良いシャンデリアは、華やかだった。暖かい色の光は、気品に溢れていた。暫く吸っていなかった空気。呑気にシャンデリアを見上げるなどということは、無いだろう、とシュウは思っていた。しかし、意外にも、時間ができた。
シュウが会いたいのは王だ。弟にも確かに恨みがあったが、そちらは単力でどうにでもなる。リーファが必要なのは、王に対抗する時だ。
「慈しみの光……か」
シュウは自嘲した。リーファは、はっきりと、似合っていない、と言っていたことを思い出したのだ。
シュウに名前をつけたのは、父ではなく母だった。強い意志を持った双眸は、今でもしっかりと覚えている。少なくとも、城のシャンデリアよりは、兵舎で燃え盛る灯火のような女だった。何故、そのような名前を付けたのか、その意図は計り知れない。
少なくとも、シュウが切り開くことによってしか、前に進めないことは、分かっていただろうに。
それでもシュウに、穏やかな生活を送らせることを望んだのだろうか。シュウは、そう考えないことにしていた。
湧き出る嫌悪感を、抑えきれないからだ。