「それ、痛そうだね」
間延びした声に手元のスマホから顔を上げると、南雲くんが私の手を覗き込んでいた。それ、というのは手荒れのことを指しているのだろう。寒い季節になるといつもこうだ。手の甲や指の間が乾燥してひび割れる。赤くなった皮膚にはうっすらと血が滲んでいて、お世辞にも綺麗とは言えない状態だった。
「クリーム塗ってる?」
「面倒だから塗ってない」
いくら塗ってもきりがないから最近はずっとこのままだ。あまりにも痛みや傷が悪化したときだけ皮膚科から処方された軟膏を塗って済ませている。
「クリームってこれ?」
「そうだけど……」
「はい、手出して。塗ってあげる」
人好きのする笑顔を浮かべた南雲くんが距離を詰めてきた。
「えっ、大丈夫だよ」
「いいからいいから。動かないでね〜」
塗っていいなんて一言も言っていないのに、南雲くんの大きな手が私の手を取って丁寧にクリームを塗り始める。こうなってしまえば何を言っても無駄だった。
彼といると自分のペースを乱される。今日だって元々は一人で休日を過ごす予定だったのに、押しかけて来た彼に流されて一緒に過ごしたりなんかして……おかしい。絶対おかしい。こんなはずじゃなかったのに。
「はい、終わり」
「……どうも」
「あはは、何? 照れてる?」
「うるさいな」
「ねえ」
「ん?」
「こういうの、僕以外にさせちゃ駄目だよ」
南雲くんの手が私の両手を包み込んだ。
あのね、わかってないみたいだから言うけど、こんなに荒れた私の手を好き好んで触りたがるのは、世界であなたくらいだよ。
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