タイミングが悪かった。普通に喉を通っていけば何も問題なかったのに、上手く飲み込めなかった水分は真っすぐに器官へ向かってしまった。途端に喉元にせり上がって来る不快感。げほげほと可愛げの欠片もない咳が止まらない。口元を抑えている手からは逆流してきたトマトジュースが滴っていた。涙目になりながら何とか呼吸を整えようとしていると、部屋の入口で物音がした。そちらを見ると仕事から帰ってきたばかりの焦凍が立っていて、そのすぐ傍には先程まで手に握られていたであろう鞄が落ちている。
「……お前、それ、」
大きく見開かれた瞳、この世の終わりにでも直面したような表情。ああ、これはいけない。完全に誤解させてしまっている。
「違うの、これは」
ちゃんと状況を説明したいのに、言葉の代わりに咳ばかりが出る。駆け寄ってきた焦凍が私の背中をさすりながら救急に連絡を入れようとしているのが見えて、私は慌てて引き留めた。
※よほど心配したらしく誤解が解けたあともしばらくくっついて離れなかった焦凍くん。