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 堪えていたものが抑えきれなくなって泣き出す私を母はいつだって蔑むような目で見ていた。私が何かを言う前に「泣かないでよ。ああ鬱陶しい」と心底うんざりした顔をする。そのたびに喉元まで出かかっていた言葉を飲み込んで「ごめんなさい」を口にした。私の涙は母を酷く苛つかせるらしい。心配をするとか、話を聞くとか、そんな素振りを見せてくれたことは一度だってなかった。

 どんなに辛くても人前では泣かない。拒絶されるのが怖くて、辛いときほど笑顔を作るようにした。それなのに、私を抱きしめる勝己くんはそれを肯定的に受け取ってはくれなかった。

「その気持ち悪い作り笑顔やめろや」

 答えられない。何を言えばいいのかわからない。小さく首を横に振ると舌打ちが聞こえた。どうして怒るの、どうして。

「俺の前でくらい我慢すんなっつってんだ」
「……でも、そうしたら嫌いになるよ」
「ならねェ」
「なるよ。他の人もそうだった」
「他のヤツのことなんか知るか。俺はならねェって言ってんだからならねェんだよ」
「……ふふ、変なの」
「悪いか」
「ううん、悪くない」

 我慢していた涙が溢れてくる。やっぱり嫌われてしまうかも。心に張り付いた記憶が不安を呼び覚ます。

「最初からそうやって素直に甘えてくりゃいいんだよ」

 優しい声で笑う勝己くんに、私はいよいよ涙を止められなくなった。