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「俺は姉さんがいてくれればそれでいい」

 それが弟の口癖だった。幼い頃、厳しい父と不安定な母に挟まれている焦凍を見ていられなくて、父の目を盗んでは傍にいた。「大丈夫」と繰り返し弟にかけていた言葉は、今にして思えば自分自身に言い聞かせていたのかもしれない。家という場所が怖かった。家族がバラバラになっていくのが苦しかった。先行きの見えない不安のなか、せめてたった一人の弟だけは守ってあげたかったのだ。


 時間は流れ、私たち家族の形にも変化が訪れていた。焦凍は母のお見舞いに行くようになったし、父とも以前より積極的に関わるようになった。父と冬美姉さん、夏雄兄さん、私、焦凍の五人で集まって外食をする機会も増えた。あの頃とは違う。守られる側だった弟は自分の足で立って前に進もうとしている。今の私にできることといえば、そんな弟を応援し、背中を押してあげることくらいだ。きっとこのまま、私たちの手を離れていくのだろう。そう思うとなんだか少し寂しくなった。


「今度の日曜なら空いてるけど……」

 夕食を終え、部屋で寛いでいると焦凍がやって来た。次の日曜に買い物に付き合ってほしいと言う。その日は予定もなかったし、可愛い弟からの申し出を断る理由は特になかった。

「私は構わないけどお友達はいいの? ほら、この前言ってた緑谷くんとか誘ってみたらどう?」
「今は緑谷関係ねえだろ。俺は姉さんと行きたい」
「そ、そう? 焦凍がいいならいいけど」

 私の返事に焦凍の雰囲気が和らいだ。こういうところはまだまだ子供だ。弟はクラスメイトと外出することもあるけれど、私を誘ってくれる回数もそれなりに多い。私が相手だと気を遣わなくて済むから楽なのかもしれないーーーその考えが私の勘違いだと思い知らされるのは、それから間もなくのことだった。