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「……、おい!」

 誰かの声がする。控えめに身体を揺らされている。深く沈んでいた意識が現実に引き戻される感覚。重たい瞼を開けると顔色の悪い勝己がそこにいた。

 目が合うと彼は大きく息を吐いてから「いつになっても起きねえから倒れたのかと思った」と顔を逸らした。寝起きで頭がはっきりしないけれど、要するに私を心配して起こしてくれたらしい。

「大丈夫だよ。薬飲んで寝てただけだから」
「……」
「今飲んでるやつだと眠りが浅いから新しい薬貰ったの。そこにあるでしょ」

 眠りの浅い私は小さな物音や気配で目を覚ますことが多い。だから彼が部屋に来るときは大抵起きた状態で出迎えられていた。でも今日はそうじゃなかったから、心配させてしまったのだろう。過去に薬の過剰摂取で倒れた前科があるから尚更だ。

「寝るならベッドで寝ろや」
「ごめん、新しく買ったクッション寝心地良くて」
「……起こして悪かった」
「いいよ、気にしないで」

 スマホを見ると二十四時を回っていた。今度こそベッドで寝直そうと支度をしていると、勝己がテーブルの上に置いたままになっていた私の薬の説明書を眺めているのが見えた。いつもそうだ。彼は私がどんな薬を飲んでいるのか、頼んでもいないのにきちんと把握しようとする。印刷された説明書だけで納得するときもあれば、自身のスマホで調べたりもしているみたいで副作用が出ていないかどうか、なんてまるでお医者さんみたいなことを聞いてくることもあった。

 自分の親ですらここまで気にかけてくれたことはない。不眠症以外にも精神的な病を抱えている私を、両親は理解できない異質なものとして扱った。すべては気のせいなのだと、暗唱できてしまうほど聞き飽きた精神論を並べては「そんなものを飲んで……」と薬を忌避した。私はこれがないと日常すらまともに送れないのに。あのまま家を出なければどうなっていただろう。考えただけでゾッとする。


「体調悪くなったらすぐ言えよ」

 二人でベッドに横になって少し経った頃、そう言って勝己が抱きしめる力を強めた。

「この前みたいに調子悪いの隠しやがったらブッ殺すからな」
「うん。ありがとう、勝己」
 
 言葉こそ強いけれど、彼の優しさは痛いくらいに伝わってくる。私はそれに縋って今日も息をしている。