陽が傾きかけた頃、まっすぐ家路についていると路地からぬっと人が現れた。無意識に相手を避けながら確認すると、そこにいたのは黒いフードを目深に被った荼毘だった。夕方とはいえ、明るい時間帯に外で会うのは珍しい。
「病院帰りか?」
「うん、よくご存知で」
「お前が外に出んのそれくらいだろ」
「あはは、そうだね」
「……目、」
「え?」
「真っ赤だな」
彼の言葉に診察室で大人げなく泣いてしまった自分を思い出して恥ずかしくなった。情けない顔を見られたくなくて、足元に視線を向ける。
歳を重ねたら勝手に心も強くなるものだと思っていた。けれど実際は違った。他の人がどうかは知らないけれど、私はむしろ子供の時より泣くことが増えた気がする。メンタルを壊して以来、私の情緒は常に不安定だった。
「荼毘、このまま家来るの?」
「……」
「部屋散らかってるんだけど……」
「気にしねェ」
「そっか」
「……」
「……」
「メンタル弱ェくせに、ヴィランと関わるのはやめなくていいのか?」
不意に零された一言に首を傾げる。だって、彼は私の数少ない貴重な友人だ。そこに敵もヒーローも関係ない。
「それはやめない」
「俺以外に友達いねぇもんなァ、お前」
「まあ、うん、そうかも……」
考えてたら悲しくなってきた。でも実際のところ、近頃頻繁に会っている人間といえば彼しかいないのも事実だった。仲の良い同世代の友人は結婚や就職をきっかけに距離ができてしまったから。
我が家まで、あと少し。アスファルトに映る大きさの違う二つの影。ああ、ずっとこんな時間だけが続けばいいのに。