受験が終わった。雄英高校には合格。けれどヒーロー科には入れなかった。
普通科に受かったことを私より先に確認した両親は、それはもう心底呆れ、並々ならぬ怒りに満ちていた。少なくとも合格発表日の我が子へ見せていい顔ではなかっただろう。
帰宅した私に待っていたのは、怒声と暴力。あれだけ金と時間を使ってやったのにどうしてだと父は怒り、母は泣いていた。説教のようなものが二時間ほど続いた頃、父が「成績優秀者にはヒーロー科への年次編入を検討すると聞いたことがある」と言い出した。嫌な予感がした。そこから先の話はあまり覚えていない。薄らと記憶にあるのは成績優秀者になるための特別教育がどうのとか、遠縁の嘗てヒーローだった親戚に連絡を、というようなことだった。二人、特に父は私のヒーロー科への進学を諦めていないらしい。
私は正直どうでもよかった。むしろ普通科でほっとした。言われるがまま、自分が目指したいのかどうかもわからない道を強制的に進まされることが何より苦痛だったから。
「いいか、名前。今度親戚のあの人に連絡をとってみるから、そうしたらお前はその人にヒーローとしての――、」
その言葉を最後まで聞かずに家を飛び出した。何もかもどうでもよかった。雄英高校の合格も、両親も、自分も。
「お子様はもう寝る時間だぜ」
場所はいつもの公園。人気のない真夜中、大きなドーム型の遊具内で蹲っていると上から声がした。見上げると綺麗な蒼と痛々しい火傷痕がこちらを覗いている。前に一度会って以来、何度かこの公園で顔を合わせるようになった人、荼毘だ。
「おやすみなさい」
「ここで寝んのかよ」
「……行くあてがないから」
「へえ」
「……」
「拾ってやろうか」
「え?」
「選ばせてやる。俺に拾われるか、お前の親が呼んだ警察が迎えに来るのを待つか」
「警察って、」
「子供思いの両親で良かったなァ、名前」
「……っ、」
心臓が締め付けられたように痛くなった。あの両親なら呼びかねない。ほら、と荼毘が指さす方を見ればパトカーがランプを点灯させながら走っていくのが見える。嫌だ。もうあの場所には帰りたくない。
「荼毘、」
「ん」
「……拾って、ください」
ドームの上から飛び降りた荼毘は、まだ遊具の中にいる私に無言で手を差し出した。その手を恐る恐る掴むと、それは想像よりもずっとあたたかくて涙が出た。