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「名前、いいか」

 隣に座る勝己が私の目を見つめながら問いかけてくる。彼が私に触れる時には必ずこうして確認をとってくれた。私が嫌だと言えば「わかった」と潔く受け入れて、強引に触れてくるようなことは決してしなかった。彼が優しい人間だということは前々から知っていたけれど、まさかこれほどとは。付き合いが長くなればどうせそんなこともしなくなるだろうとどこか冷めた感情を抱いていた私を、勝己はいい意味で裏切ってくれたのだ。

「うん、いいよ」

 本当に律義だ。私の返答を聞き終えた勝己に抱き寄せられて、その腕の中で小さく笑うと「何だよ」と存外柔らかい声に咎められた。

「勝己は優しいなと思って」
「なんだそりゃ」
「だって絶対私の嫌がることしないじゃん」
「あたりめーだろ」
「世の中にはそれができない人間がたくさんいるんだよ」

 過去に付き合いのあった異性はみんなそうだった。告白もなく、それがさも当然であるかのように身体に触れてくる。勝手に手を繋いで、強引に唇を重ねて、勢いに任せて抱いて、私の意思なんてお構いなし。そんな相手に触れられるたびに自分がただの性欲処理の道具にされている気がして吐き気がした。そんな相手も、それに流される自分自身のことも大嫌いだった。

 だから勝己に告白されて、彼が私の意思を尊重して触れてくれることが嬉しかった。どれほど大切に思ってくれているのか、その一挙手一投足で痛いくらいに伝えてくれるから。

「ねえ、キスしていい?」

 勝己が私に聞いてくれるように、私も彼の了承を得てから触れるようになった。私の問いに「ん」という短い返事が聞こえたので、頬に両手を添えて触れるだけのキスをする。

「まだ足りねェ」

 赤い瞳が続きを強請る。それを断る理由はどこにもなくて、導かれるように唇を重ねた。