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「また帰るの」

 不機嫌を露わにする弔くんに苦笑いで返すと、眉を顰められてしまった。

「先週帰っただろ」
「先週は父方のおばあちゃんの家だったの。今週は母方のおばあちゃん達に会っておきたくて……」
「……」
「やっぱり駄目?」
「……やだ」

 やだ、かぁ。「駄目」と否定するのではなく「嫌だ」と自分の気持ちを素直に伝えてくれるあたりがとても弔くんらしくて、こんな状況だというのに自然と頬が緩んでしまう。

「じゃあ朝一番の電車で行って日帰りするから。それならいい?」
「お前体力ないくせにそういう無理するのやめろよ」
「大丈夫だよ」
「先週も帰ってきてしばらく寝込んだこと、もう忘れたのか?」
「うっ」

 返す言葉がない。体力のない私は帰省するたびに体調を崩してしまう。暑いこの時期の負担は言うまでもないけれど、それでも帰省をするという選択をしてしまうのは、いつまでもお互い元気でいられるかどうかわからないから。それを考えると多少の無理をしてでも会っておきたくなってしまう。かといって弔くんを困らせたいわけじゃないから、さてどうしたものかと思考を巡らせる。困ったな。私の身体がもっと強ければ、こんなことで悩まずに済んだのに。

 小さく吐き出された弔くんの溜息に身体が硬直する。何を言われるのかな。マイナスな考えばかりが浮かんで呼吸が苦しくなる。

「名前、」
「……うん」
「日帰りはするな。ゆっくり休んで戻ってくればいい」
「えっ」
「……気は進まないけど、名前が少しでも体調崩さずにいられるのならそれがいいだろ」

 彼の指が頬に添えられる。私を射抜く紅色にはあたたかな愛情だけが灯っていて、それが真っ直ぐに注がれている。

「ありがとう、弔くん」
「……ん」
「なるべく早く、元気に帰ってくるね」
「帰る時間が決まったら連絡して。迎えに行く」

 本当にヴィランをやっているのかと思ってしまうくらいに弔くんは優しい。こんな私のわがままを許して付き合ってくれるのは、きっと世界でも彼だけだ。