「あ」
「……」
エレベーターに乗り込むとスケプティックさんが乗っていた。目的の階も同じようで、私が押す前に目的地のパネルが光っている。弔くんに用事でもあるのかなと思いながら、私よりもずっと高い背中を眺めた。
「あの」
「何だ」
「いつもありがとうございます。その、金銭面とか食事とか……」
「そう思うならもう少し遠慮というものを覚えたらどうだ」
「あはは……そうですね」
先日も高級な和牛を食べさせてもらったばかりだった。きっかけは「寿司は飽きたから肉がいい」という以前の連合では考えられない発言で。それに驚いたのは私の身体も同じだったらしく、食べ慣れない豪勢な食事の連続に胃が荒れていた。意識するとまた胃が痛んだ気がして、咄嗟に手のひらで擦る。
「具合でも悪いのか?」
「えっと、まあ、胃がちょっと」
「どうせ拾い食いでもしたんだろう」
「違います! 豪華なご飯に胃がついていけなかっただけで……あっ」
「……」
前髪で隠れているけどそれでもわかる。じっとりとした視線。「お前、あれだけ奢らせておいて文句まで言うのか」と。そんな無言の圧がめちゃくちゃ刺さっている。視線に耐えかねて俯いているとエレベーターが止まった。私が何かを言う前にスケプティックさんが歩き出して、私も少しの距離を空けて後を追った。
「受け取れ」
後日、廊下でスケプティックさんに声をかけられた。先日の会話が微妙な空気で終わってしまったので正直気まずかったけど、向こうはいつも通りの態度で安心した。そしてそんな彼が差し出してきたのは評判のいい胃薬で。
「いざという時にリ・デストロの足を引っ張られては困るからな」
私の手に薬の箱を乗せると、彼はすぐにまたどこかへ歩いていく。その背中に「スケプティックさん、ありがとうございます」と声をかけると、その歩みが少しだけ止まって、今度こそ通路の向こうに姿を消した。