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テーマ「推しとの恋」
- ナノ -


 じりじりと日光がアスファルトを焼いている。七月になったばかりだというのに、太陽の光はもう熱いというより痛いくらいだった。

 いくつかあるアジトのうちのひとつ、簡素なプレハブ小屋の前。その入口手前までやって来ているのに、私の足はそこから動けないでいる。それもこれも扉の前でひっくり返っている小さな生き物のせいだ。



「おい」
「ひっ」

 背後からの声に驚きながら振り返ると、機嫌の悪そうな荼毘が立っていた。

「何突っ立って……、あ?」

 私の前に出た荼毘も、地面にいる存在ーーーーセミに気がついたらしい。

「まさかこいつにビビって固まってンのか?」
「……だって急に飛ぶかもしれないし」
「避けりゃいいだろ」

 どんくさい私に無茶を言わないでほしい。セミって勢いよく飛ぶと結構速いんだよ。予想もつかない方向に動いたりするし。

「……」
「あっ、荼毘、」
「ンだよ」
「どうするの、セミ」

 セミの前に屈む荼毘。その背から少し離れて声をかける。

「……」
「……」

 てっきり足で退かすタイプかと思いきや、荼毘はセミを持ち上げて近くの木陰に置いた。そのまま何事もなかったように扉を開けて入っていく。移動させられたセミはそこから動かない。でも小さくジジ……と鳴いているからまだ生きてはいるのだろう。


「荼毘、優しいんだね」
「別に普通だろ」
「蹴とばすか燃やすと思ってた」
「セミ持ってきてやろうか」
「ごめん」