首を絞められていた。目に見えない何かが気道を潰すようにじわじわと力を加えてくる。ただひたすら苦しくて、何もわからなくて、漠然とこのまま死ぬのかな、と思った。
「っ、」
視界に飛び込んできたのは暗闇と、私にのしかかる人影。圧迫するように首に回されている手は熱く、これが夢じゃないことを知らしめてくる。眠っている人間にこんなことをする人物は、私の知る限り一人しかいなかった。
「……燈矢くん」
「なんだ、起きたんだ」
少しだけ圧迫感がなくなった。それでも彼の両手は首から離れない。
「何かあった?」
「……」
「玄関どうやって開けたの?」
「……合鍵」
「合鍵渡したっけ?」
「……」
「燈矢くん」
「何」
「手、離してもらえると嬉しいんだけど」
「……」
「隣においで。一緒に寝よう」
「……」
勝手に合鍵を持ち帰っていたことや、真夜中の不法侵入、眠る私の首を絞めていたこと等々言いたいことや聞きたいことは沢山あるけれど、今の彼にそれらを問うのは悪手だ。逆鱗に触れて本当に絞め殺されては困る。だから必要以上には聞かない。そうするしかない。
漸く私の上から降りた燈矢くんはおとなしく隣に寝転んでくれた。しかしここに来て微妙に私と距離を空けようとするので、えいっと抱き寄せるとその小さな身体が震えていることに気づいた。
「よしよし、いいこいいこ」
「子供扱いすんな」
「子供扱いじゃないよ、特別扱い」
「……ばっかじゃねーの」
私より体温の高い身体を抱きしめていると不思議と眠気が戻ってくる。時折小さな嗚咽が聞こえたら、黙って頭を撫でてあげた。私がこの子にしてあげられることはとても少ない。それでも、今この瞬間だけでも楽になってくれたら。そんなことを願いながら、朝まで二人寄り添って眠った。