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「#寸止め」のBL小説を読む
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 起きている時間より眠っている時間の方が多くなった。目が覚めると日が昇って、次は太陽が真上にあって、次は西日が眩しくて。意識がはっきりするたびに時間だけが過ぎていった。浅い眠りを繰り返すせいで何度も何度も夢を見る。その大半が悪夢で、寝起きの気分が良かったことは殆どない。それでも起きているよりは眠っているほうがずっとマシで、起きては睡眠導入剤を飲んで眠った。療養のための生活だったはずが、健康には程遠い日々が続いている。


「……荼毘?」

 色彩を失った私の人生において唯一の色。これも夢だろうか。自分の認識に自信が持てず、こちらに顔を向けて寝転んでいる彼に恐る恐る手を伸ばす。そっと頬に触れ、そのままじっと見つめていると、瞼がふるりと震えて蒼い瞳が私を射抜いた。

「……まだ寝てろ」
「荼毘、」
「あ?」
「夢じゃ、ないよね」

 リアリティのある夢も頻繁に見ているせいで目の前の存在すらも疑ってしまう。これは私の脳が見せている都合のいい夢で、本当は隣には誰もいないのではないかと。

「……さァ、どうだろうな」

 荼毘の手が私の頬に触れた。やっぱり、あたたかい。私の鬱屈とした日常の中の、たったひとつの非日常。何にも代えられない大切な人。夢でも現実でもいいから、この瞬間がずっと続いてほしいと思った。明日なんていらない。荼毘が隣にいてくれたら、私は、



 次に気がついたら正午を少し過ぎていた。隣には誰もいない。喉の渇きを感じてベッドから起き上がると、ローテーブルに見覚えのある銀色を見つけた。それは荼毘が普段身に着けているピアスのひとつで、昨日眠る前まではなかったものだ。

 彼がどういう意図でこれを置いて帰ったのかはわからない。けれど、昨日の出来事は夢じゃなかったんだと教えてくれるその存在が愛しくてたまらなかった。