「名前先輩、仁王先輩がどこに行ったか知らないっスか!?」
そう言って赤也がこの教室に飛び込んできたのは、ほんの十分ほど前のことだ。
「また騙されたの?」
「そうなんスよ。それでちょっと探してて」
仁王と同じクラスとはいえ、昼休みにどこにいるかまでは知らない。そのことはもう何度も伝えてあるはずなのに、赤也は相変わらず私の所へやってくる。
「だって仁王先輩と一緒にいること多いじゃないスか」
「さすがに居場所まではわからないよ」
「ちぇー」
先輩なら知ってると思ったんスけど、と口を尖らせる赤也。どうやら拗ねてしまったらしい。
「仁王のことは教えられないけど、その代わりにこれあげる」
私は鞄の中に入れておいた一口サイズのチョコをいくつか手に取り、不思議そうな顔でこちらを伺う赤也の手に乗せた。
「いいんスか?」
「うん。もしかしたらそれ食べてる間に帰ってくるかもしれないし」
「あざっす!」
さっきまでの不機嫌はどこへやら。チョコを食べながら最近夢中になっているゲームの話をする赤也に、私も自然と笑顔が浮かんでいた。
その後もなんだかんだと話が弾み、気が付くと昼休みが終わりかけていた。赤也は次の授業が移動教室らしく、ここへやって来たときと同じように駆け足で教室を出ていった。
「赤也には随分甘いんじゃの」
次の授業の準備をしていると、背後からぬうっと伸びてきた腕に引き寄せられた。誰か、なんて聞くまでもない。
「その赤也は誰かさんをずっと待ってたみたいだけど」
振り返れば表情の読めない仁王と目が合って。回されている腕をぽんぽんと叩いてみたけれど、離してくれる様子はない。
「からかうのも程々にね」
「……善処するナリ」
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