累という鬼の少年に出会ったことがきっかけで、血は繋がっていないけれど私にも家族ができた。
「紹介するよ。右から姉さん、母さん、兄さん」
「は、はじめまして……名前です」
思わず悲鳴が零れそうになるのをぐっと飲み込んだ。本当に申し訳ないけれど、お兄さんの姿を目にして身体が震え上がってしまったのだ。彼は頭こそ人間だけれど、胴体は蜘蛛そのものと言っていい。私は蜘蛛が大の苦手だ。しかし怖がっていることを本人に知られてしまえば機嫌を損ねてしまうかもしれない。なんとか耐えなければ、なんとか……!
「あっ、すみませ、……!!」
ほぼ無意識で後ずさった瞬間、誰かにぶつかってしまった。謝罪の言葉を口にしながら振り返ったところで、私は目の前が真っ暗になった。
ただ、気を失う直前に累が「父さん、その人が新しく家族になった名前だよ」と声をかけているのが聞こえたので、きっと彼がお父さんなのだろう。
「おかしいったらないわ! まさか気絶するなんてね」
お姉さんがお腹を抱えてひいひい笑っている。
「……すみません」
「あんなに怖がってたら命がいくつあっても足りないわよ」
「返す言葉もございません」
この家族の一員として、これからちゃんと生きていけるだろうか。今更だけど物凄く不安になってきた。
「私、鬼狩りよりお父さんが怖いかもしれない……」
そう呟くと、彼女は笑い過ぎが原因の涙を拭いながら「そうでしょうね」とまた笑い始めてしまった。穴があったら入りたい。
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