「名前さん飲み過ぎですよ」
「平気平気、ただの水だもん」
「これはお酒です!」
「アオイちゃんあと一杯だけ〜」
「駄目です。これは私がお預かりします」
名前さんは目を離すとすぐこれだ。療養に来ているというのにどこから持ち込んでいるのか、気がつくと酒瓶を片手に酔っ払っている。本人は「怪我も治ったし快気祝いだよ」と笑っているけれど、いくらなんでも飲み過ぎだ。うわーんと情けない声を発する名前さんを無視して、酒瓶を棚の奥へ片付けた。
「名前さん、そんなことより柱の方がいらっしゃってますよ」
先程から無言で壁にもたれかかっていた冨岡さんがこちらへ近づいてくる。名前さんはというと私にしがみついたまま、じっと彼を見つめていた。
「義勇さん、」
「……」
「いつの間に分身できるようになったんですか? 三人もいる」
「俺は一人だ」
「もしかして忍の者だったんですか? うわあ、かっこいい!」
「……」
酔った名前さんの問いには答えず、冨岡さんは軽々と彼女を肩に担ぎ上げると「世話になった」と言い残し、屋敷を出て行ってしまった。まだ安静にしておいたほうが……と引き留めようか迷ったけれど「アオイちゃんありがとう〜!またね!」と笑顔で手を振る彼女の勢いに押されてしまい、「お大事に」と小さく手を上げるだけに留まった。まあ、怪我は一応治っているしあの様子なら大丈夫でしょう。
「ねえねえ義勇さん、今度私にも分身の術教えてくださいよ」
「黙っていろ」
「そんなに心配しなくても舌なんて噛まな……うっ」
「……」
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