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これの続き
この世界に来てからというもの、私は鬼殺隊の人間を探し続けている。それは勿論、柱と現当主様の力を借りるためだ。あの男に殺されたくない。どうか私と母を助けてほしい。そんな思いで時間を見つけては街へ繰り出し、それらしい人物を探して歩き回っていた。
しかし一向に彼らは見つからない。かといって他の誰かに協力してもらうわけにもいかなかった。これは絶対に私一人でやらなくてはならない。
もし他の誰かに鬼殺隊を探していることを明かし、それが父である鬼舞辻に伝わってしまったら……考えるだけでも恐ろしい。どれだけ遠回りだとしても、やはり自分の足で地道に探していくのが最善のように思えた。
「いないなぁ……」
今日は家からかなり離れた街で探してみたけれど、また空振りに終わってしまった。いつものことだと頭ではわかっているが、些か気落ちしてしまう。歩きすぎて足も痛い。重く痛む足を引きずりながら、自分は本当に彼らを見つけることができるのだろうか、と夜空を仰いだ。
「名前?」
「え?」
聴き慣れた声が鼓膜を揺らす。驚いて振り返った先には父の姿があった。
「奇遇だね。私も仕事でこの街に来ていたんだよ」
「そう、だったの」
「それより、一人でこんな遠くまで来たのかい? 言ってくれれば車で一緒に来られただろうに」
「ううん、いいの。お父さんに迷惑はかけられないし……」
「私に遠慮する必要などないよ。名前はもう少し我が儘を覚えたほうがいい」
「……」
「さあ、もう遅い。帰ろうか」
あの細い腕のどこにそんな力があるのか。彼は私を難なく抱き上げると、横抱きにした状態で足早に歩き始めた。
「じ、自分で歩けるから……!」
「足を痛めている時くらい、素直に甘えなさい」
「それは、」
いつから見られていたのだろう。仕事だなんて言っているけれど、それもどこまで本当かわからない。さすがに私が探している相手が誰なのかまでは知らないだろうけど……今後はもっと用心しなくては。家から距離がある街だったから、少なからず油断してしまっていた。
「……ところで、ここで誰を探していたのかな」
低い声音と、心臓を鷲掴みにされるような感覚。身体から一気に血の気が引いた。焦るな、慌てるな。
「私、斎藤さんを探してて、」
なんとか声を絞り出す。斎藤さんは私の婚約者だった人だ。半年以上前に行方不明になり、それ以来彼を見たという話は一度も聞いていない。
「ああ、彼のことは本当に残念だったね。早く見つかるといいが……」
「……」
私の話を信じてくれているのか否か、それを確かめる術はない。だからといって彼を恐れて鬼殺隊探しをやめるようなことはしたくなかった。
「っ、」
正面を向いていた彼が私を見下ろして微笑んだ。本来心を落ち着かせてくれるはずのそれは、今は恐怖の対象でしかなくて。彼が手配していた車に乗せられるまで、私は少しも生きた心地がしなかった。
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