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「#年下攻め」のBL小説を読む
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 面倒なことになった。俺はただ名前をつれて神室町を歩いていただけなのだが、警官に呼び止められてしまい既に十分ほど職質を受けている。それだけならまだいいが、何度「知り合いの子供を預かっている」と説明しても相手が納得せず、一向に解放してもらえる気配がない。この警官はどうしても俺を誘拐犯にしたいらしい。

「だから何度も言ってるだろう。この子は知り合いの子で、今日は預かっているだけだ」
「そう言われてもねえ。預かっている証拠もないし」
「いい加減にしてくれ。同じことを何度言わせれば気が済むんだ」
「最近このあたりで誘拐事件があったばかりなんですよ。ですから我々としても警戒せざるを得ない状況でして」
「……」

 何を言おうがこいつは納得しそうにない。というかそもそも納得しようという気が感じられない。いっそのこと名前を抱えて逃げる手も考えたが、それはそれで面倒なことになりかねない。どうしたものか。

「念のため、一度署までご同行願えますか」
「断る」
「あのねお兄さん、そうは言っても」
「お、お巡りさん!」

 警官の少し苛立った声を遮るように名前が声を上げた。

「なんだい? お嬢ちゃん」
「桐生ちゃん女の子だから、いじめないであげて!」
「え?」

 俺を庇うように名前が両腕をめいっぱい広げ、前に出た。俺が女だという誤解は先日解いたはずだが……と思ったが、これはチャンスだ。

「そ……、そうよ。まったく失礼しちゃうわ。アタシが誘拐なんてするはずないじゃない」

 恥を捨て、間髪入れずにオネエ言葉を口にした。脳内には先日真島の兄さんに無理やり連れて行かれた女装バーの店員達の顔が浮かんでいる。これにはさすがの警官も驚いたようで「そちらの方だったんですか……?」と狼狽えている。

「い、いや、しかし……」
「悪いけどこれから予定が入ってるの。もう行くわね」

 さぁ、行きましょう。名前の手をとり、呆気にとられている警官の傍を足早に通り過ぎた。



「名前、さっきは助かった。ありがとうな」

 あの警官が追ってくる様子はない。上手く誤魔化せたようだ。

「うん!」
「それにしても、よく咄嗟にあんな嘘を思いついたな」
「前にね、ゴロ美ちゃんと一緒にお散歩してたときにも同じことがあったんだ。だからそのときのことを思い出してお話したんだよ」
「そうだったのか」

 というか真島の兄さんはあの姿で街をうろうろしてるのか……。それに関してもかなり驚きだが、名前の肝が妙に据わっているのも、やはり兄さんの影響が大きいのかもしれないと思わされた出来事だった。

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