以前から疑問に思っていたが、名前は俺と遊ぶ時は必ずと言っていいほど「おままごと」をやりたがる。錦や真島の兄さんとは外で遊ぶことも多いのに、どうして俺とは外で遊ぼうとしないのか、それがずっと気になっていた。
今日も真島の兄さんに連れられて、名前が家にやって来た。しかし急な仕事が入ったらしい兄さんは名前を預けて早々に出て行ってしまい、今は俺と二人だけである。
せっかくなので錦にも「暇なら来ないか」と連絡を入れると、丁度暇を持て余していたようで今から来ることになった。
「なあ、名前」
「なあに」
「前から気になっていたんだが、俺とは外で遊ばないのか?」
「だって桐生ちゃん女の子だから、おままごとの方が好きかと思って」
「なに?」
「?」
女の子という単語に自分の耳を疑った。念のためにもう一度言ってくれと聞き返したが、やはり先程と同じ言葉が返ってきた。
「俺は女の子じゃないぞ」
「え? 桐生ちゃんなのに女の子じゃないの?」
「ああ」
そこでなんとなく合点がいった。真島の兄さんが俺を「桐生ちゃん」と呼んでいるのを聞いて、名前は俺を女だと思ったのかもしれない。どこからどう見ても男にしか見えないはずだが、相手はまだ子供だ。おそらく名前に「ちゃん」をつけて呼ぶ相手は女、「くん」をつけて呼ぶ相手は男、くらいの認識なのだろう。
「じゃあ、桐生くん?」
「そういうことになるな。まあ改めてそう呼ばれると違和感があるから、呼び方は変えなくてもいいが」
「なるほど……」
「だから今日は外で遊ばないか? 近くに公園があっただろう」
「遊ぶ! 桐生ちゃんと公園行きたい!」
「よし、それじゃあ錦が来たら行こうな」
「うん!」
それから程なくして錦も合流し、三人で近所の公園へ向かった。
「ねえ錦お兄ちゃん、桐生ちゃんは女の子じゃないんだよ」
「は?」
俺と錦に手を引かれながら名前が真剣な顔でそう言った。しばらくぽかんとした表情を浮かべていた錦だったが、やがて説明しろと言わんばかりの視線を俺に投げてくる。仕方がないので事のあらましを説明すると、錦は腹を抱える勢いで笑いだした。
「おい、笑いすぎだ」
「だってよォ、お前が女って」
「うるせえな。名前はまだ子供だから仕方ねえだろ」
「はいはい。怒るなよ、桐生ちゃん」
「……」
「桐生ちゃん怒ってる? 私のせい?」
「いや、怒ってないから気にしないでくれ」
少なくとも名前には怒ってない。未だに笑い続ける錦を一睨みして、名前の頭をそっと撫でた。
しかし今回の件を真島の兄さんが知れば、錦以上に笑われるのは間違いないだろう。その光景があまりにも容易に想像できてしまい、少しだけ頭が痛くなった。
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