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 あ、駄目だ。そう思ったときには既に涙が零れていた。何か決定的に嫌なことがあったわけじゃない。それでもこうして勝手に泣いてしまうことがある。急激に気分が落ち込んで動けなくなってしまうのだ。これはある種の通り雨みたいなもので、こうなってしまった場合は気分の波が落ち着くのを静かに泣きながら待つのが一番だった。

「……」

 近くにあったクッションを抱き寄せて泣いていると、玄関が開く音がした。きっとシャドウだ。ぼろぼろ涙を流しながら「おかえり」と声をかけると、シャドウは一瞬ぎょっとした顔をしたけれど、すぐに私の状態を察したらしく「何かあったのか」と傍へ来てくれた。

「ううん、何も。いつもの」
「そうか」

 それっきり、シャドウは何も言わなかった。かといって私の傍を離れることもなく、涙が落ち着くまで黙って隣にいてくれた。そんなシャドウの優しさに、私は今日も救われている。

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