「仕事じゃないんだから私の世話なんてしなくていいんだよ。気持ちは嬉しいけど、負担になるくらいなら放っておいてね」
ベッドに横たわる私の傍で、本を読んでいるシャドウの背に声をかけた。振り返った彼は眉間に皺を寄せながら「僕が望んでやっていることだ」と手元の本を閉じた。
「君の世話を負担だと思ったことは一度もない」
「……そうなの?」
体調だけじゃなく精神まで壊してしまったため、仕事のない日はベッドの上で過ごすことが殆どだ。あまり精神を病んでいた自覚もなかったので、初めて症状を自覚したときは驚いた。ある日、目が覚めたらベッドから起きあがることができず、なんでもないのに涙が止まらなくなってしまったのだ。子供のように泣き続ける私を、シャドウが慌てて病院に連れて行ってくれたのは記憶に新しい。
シャドウは出会った頃からずっと優しいけれど、私が調子を崩してからは更に優しくなったように思う。優しい、というか色々と世話をしてくれるようになったというべきか。料理や掃除、洗濯といった家事も任せてしまうことが増えてしまった。調子が良い日は自分でできるけれど、ここしばらくはまともに動けず任せきりである。それが申し訳なくて落ち込んでいると、シャドウは必ず「今の名前の仕事は休むことだ」と慰めてくれるのだけど、どうしても気が引けてしまう。
「ほんと、ごめ……っ!」
ごめんね、と言い終える前にシャドウの手に口を塞がれた。
「君は何も悪くない。謝るな」
「……」
「わかったか?」
赤の瞳に至近距離で射抜かれる。暫く互いに無言のまま見つめ合った。
「……それに、名前の世話を焼く生活もなかなか悪くない」
想像もしていなかった言葉に呆気にとられていると、口を塞いでいた手が離れていく。しかしそれも束の間で、再びシャドウとの距離が縮まった。
「……っ」
言葉を発するよりも早く、塞がれた唇。今度は彼の手ではなく、口で。ああもう、頭が真っ白になってしまった。
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