僕等の司書は多忙だ。なぜなら彼女は司書の他に審神者の仕事も担っているからだ。なんでも“刀剣男士”という存在と共に、歴史修正主義者と呼ばれる相手と戦っているらしい。
審神者の仕事は司書の仕事と違い、一年以上前から従事しているようだ。仕事にも慣れ、人手や資材も充分に集まっていると聞いた。だからこそ司書の仕事も引き受けられたのだろう。
「もう行くのかい」
「うん、留守は任せたよ」
「それはかまわないけど、……もう少しゆっくりしていけばいいのに」
面白くない。猫みたいにフラフラする彼女も、見たこともない刀剣男士とやらの存在も。名前の口から知らない男士の名前が出るたびに胸のあたりがモヤモヤした。今だって政府から新しい仕事を受けたとかで図書館に帰ってきたばかりなのにまたすぐに本丸に向かおうとしている。急ぎの仕事じゃないんだから、別に今すぐ行かなくてもいいじゃないか。
「まだ日課も山ほど残ってるし、寄り道しないで帰ってくるように」
「はーい。それじゃあいってきます」
ぱたぱたと駆けていく背中を見つめながら溜め息を零す。それは彼女に対してではなく、子供じみた嫉妬心を隠せない己に向けたものだ。帰ってほしくない、ましてや自分の知らない男達の傍になど行ってほしくない、なんて。
「あ、秋声」
「うわっ! ……どうしたの、忘れ物?」
「ちょっと耳貸して」
「耳?」
忘れ物かと思ったが違うらしい。言われるままに耳を貸した。
「お土産買ってくるから、楽しみにしてて」
「それを言うためにわざわざ戻ってきたの?」
「うん。他の人には内緒だよ」
ずっと助手を頑張ってくれてる秋声に、お礼。唇に指を当て、名前は笑った。困るなぁ、そんなこと言われたら何も言えなくなるだろう。
「期待しないで待ってるよ」
「もう! ちょっとくらい期待してくれてもいいじゃない」
頬を膨らませる名前の頭を撫でてやり、今度こそ玄関先から出て行く背を見送った。やっぱり彼女が僕の傍を離れるのは面白くないし、本丸に戻ってほしくない気持ちは変わらない。だけど、ちゃんとここへ帰ってきてくれるというのならいいことにしようか。少なくとも、今は。
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