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「#年下攻め」のBL小説を読む
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 日曜日の昼下がり。ファミレスでぬーべーと待ち合わせをしていると、美樹ちゃんと郷子ちゃんに出会った。二人は私が誰を待っているのかをすぐに見抜いたようで「ぬーべーが来るまで女子会しましょうよ!」という美樹ちゃんの提案で、急遽女子会が始まっていた。


「名前さんはぬーべーなんかのどこがいいの?」
「エッ、げほっ、どうしたの」

 飲んでいた水をあやうく吐き出してしまうところだった。最初は美樹ちゃんと郷子ちゃんの恋の話や学校の話、幽霊や妖怪の話を聞かせてもらっていたのだけど、ついに話の順番が私に回ってきてしまったらしい。

「大学生なら出会いも沢山ありそうだし、よりによってぬーべーじゃなくてもいいんじゃないかと思って」
「私も前から気になってたんですけど、ぬーべーのどこが好きなんですか?」
「どこがって、そんなこと急に言われても……」
「もしかして弱味でも握られて無理やり付き合わされてるんですか!?」

 なんて可哀想な名前お姉さま!ぬーべーに彼女ができるなんておかしいと思ってたのよね、と美樹ちゃんの話はどんどん広がっていく。先に断っておくと、私は決して弱味を握られてお付き合いをしているわけじゃない。さすがにこれはぬーべーの名誉のためにも否定しなければ。

「美樹ちゃん、さすがにそんなことはないから大丈夫だよ」
「じゃあどこが好きなんですか? 教えてください!」

 身を乗り出した美樹ちゃんにぐいっと詰め寄られて口ごもる。しかしここで適当に話を流してしまっては、明日にはあることないことを彼女に喋られかねない。

「うーん……普段はちょっと抜けてる所もあるけど、いざというときは頼りになるところとか、」
「うんうん」
「誰に対しても優しいし、」
「それでそれで?」
「どんな状況でも前を向けるところも素敵だと思う」
「へえ〜」
「あはは、言い出したらきりがないから困っちゃうね」

 なんだろう。惚気って物凄く照れる。私自身あまり惚気を人に話すようなタイプではないので、尚更恥ずかしい。ぬーべーのことを悪く言われないように正直な気持ちを話してはいるけれどめちゃくちゃ恥ずかしい。この場に本人がいないことだけが救いだ。

「外見はどう思ってるんですか? 私は断然玉藻先生みたいな人が好みなんですけど!」
「好きだよ。今まで出会った人のなかで一番……か、かっこいいと思う」
「蓼食う虫も好き好きってやつですね」
「美樹、失礼よ」
「だって本当のことじゃない。名前さんだったら他にいくらでも彼氏作れそうなのに」
「私ね、ぬーべーじゃなきゃ駄目なんだ。だから他の人と付き合うなんてとてもじゃないけど考えられなくて」
「あ」
「あ」
「え?」
 
 前に座る美樹ちゃんと郷子ちゃんの視線が私の後ろに向いている。やがて二人は顔を青くして視線を彷徨わせていて。なんだか物凄く嫌な予感がする。

「お前らなぁ……人のことだと思って散々言いやがって……!」

 予感的中。振り返ってみればそこには待ちわびていたぬーべーの姿が。

「やだ、もうこんな時間じゃない! 郷子、帰るわよ」
「待ってよ美樹! 名前さん、デザートごちそうさまでした」

 そう言って二人は慌てて席を立った。確かにぬーべーが来るまでとは言ったけど、このタイミングで一人にされると気まずいよ!

「あっ、こら、俺の話はまだ終わってないぞ」
「まあまあ、落ち着いて」
「全く、油断も隙もないな」

 待たせてごめんな。ぬーべーは申し訳なさそうな表情で、先ほどまで教え子が座っていた席に腰を下ろした。

「……あの、さ」
「ん?」
「もしかして、さっきの話聞いてた?」
「あ、ああ。少しだけ」
「……そう」

 一体どこから聞かれていたんだろう。多分最初の方は聞かれてないと思うけど恥ずかしすぎる。合わせる顔がなく、俯いて顔の熱が去るのを待っていれば、テーブルに置いていた手を握られた。恐る恐る顔を上げれば、ぬーべーは私と同じように頬を赤らめていて。

「あー、なんだ、その、嬉しかったよ」
「えっ」
「俺も、名前じゃなきゃ駄目だ。だから、これからもずっと……傍にいてほしいと思ってる」
「!」

 やっぱり聞かれてたんだ。凄まじい羞恥に襲われながらも、今聞いた言葉を脳内で反芻する。色々な感情が混ざり合って、うまく言葉が出てこない。それでも今の気持ちを伝えたくて、ぬーべーの手をきゅっと握った。黙ったまま、互いを見つめ合う。ここがファミレスの店内であることなど忘れ、なんともいえない甘い雰囲気に包まれていると、突然グーッと音が鳴った。

 どうやら今のはぬーべーのお腹の音だったらしい。彼のことだ、きっと朝から何も食べていないのだろう。

「な、何か食べるか」
「そうだね」

 このタイミングでお腹を鳴らすなんて、やっぱりぬーべーはぬーべーだ。そういう所も含めて、私は彼が好きなのだけれど。

「ぬーべーって可愛いね」

 真剣にメニューと向き合う姿を眺めながら呟けば「大の男に向かって可愛いはないだろう」と頬を掻いた。

 後日、帰宅するフリをして様子を見ていたらしい美樹ちゃんと郷子ちゃんに捕まり「あんなムードのない男のどこがいいんですか!?」と詰め寄られたのはまた別のお話。


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