※夢主と天火は双子
昼食を終え、私は縁側でごろりと横になっていた。今朝はやけに早く目が覚めてしまい、今になって眠気に襲われていたのだ。少しだけ、と自分に言い訳をして早々に目を閉じた。
「!?」
うつらうつらとしていたところへ、バサッ!という音と共に身体に何かが覆い被さってきた。布、だろうか。いや、そんなことよりも今は大切な昼寝を邪魔した犯人を確かめなくてはならない。被せられた布を押しのけ、頭に浮かんだ犯人の名を口にした。
「ちょっと天火! 人がせっかく気持ちよく昼寝してるんだから邪魔しないで……あれ?」
「起きたか」
「蒼世? なんで家に? 私、まだ夢見てるの?」
呆れた顔で私を見下ろしていたのは予想していた犯人ではなく蒼世だった。ちなみに私に被せられていた布は横になる前に脱ぎ散らかしていた羽織りである。彼はそれを私に被せたようだ。
「先生に用事があったからな。あとは、これをお前に渡しに来た」
「何……っ、あー! これ! ずっと食べたかったお饅頭! もしかして買ってきてくれたの?」
「先生への手土産げのついでだ」
「ついででも何でも嬉しいよ! ありがとう蒼世」
昼寝を邪魔されたことへの怒りなど一瞬で忘れ、蒼世に抱きついた。以前「食べたい」と話していたことをきっと覚えていてくれたのだろう。
「お茶入れてくるから今から一緒に食べようよ」
「いや、俺は」
「いいからいいから! すぐ準備するから待っててね」
蒼世の言葉を遮って台所へ急ぐ。身体にまとわりついていた眠気は完全に消え去っていた。
「はい、どうぞ」
「ああ。ありがとう」
蒼世と二人並んで縁側に腰掛ける。お土産に渡されたお饅頭は想像の何倍も美味しくて大満足だ。
「あ! 二人で何いちゃいちゃしてんだよ! 俺も混ぜろ!」
廊下の向こうから天火がドタドタとこちらへ駆けてくる。どこかへ散歩に出かけていたようだったが、もう帰っていたらしい。
「馬鹿を言え。どこをどう見たらそのように解釈できるのだ」
「天火、口開けて」
「あー」
蒼世と天火が喧嘩を始める前に、天火の口へお饅頭を放り込む。こうしておけばとりあえずおとなしくなるだろう。予想通り、天火はすぐに食べることに夢中で縁側には再び穏やかな空気が流れ始めた。
「たまにはこういう日もいいよねえ。のんびり縁側で昼寝して、お饅頭食べて」
「お前はいつもそうだろう」
「ハハハ、それは言えてる」
「天火だっていつも家にいるときはゴロゴロしてるじゃん」
「俺はいいんだよ」
「なにその俺ルール。一人だけズルくない?」
「ズルくない」
ズルい、ズルくない、ズルい。終わりのない押し問答を繰り返していると蒼世がスッと立ち上がった。私と天火はぱちくりとまばたきをして、同時に彼を見上げる。
「もう帰るの?」
「ああ」
「なんだよ、もっとゆっくりしていけばいいのに」
「誘いは有り難いが、用事があるのでな」
「俺と名前より大事な用事って……、もしかして女か!? 俺たちというものがありながらそーせーくんの浮気者ォ!」
「うわ、天火うざ……」
「名前ちゃんひどい!」
ぶりっ子全開の天火を抑えつけ、蒼世に手を振った。私だってもう少しゆっくりしていってほしかったけど、用事があるのなら仕方がない。名残惜しさを感じつつ、二人で蒼世の背を見送った。
「……ん?」
ふと手元のお皿を見ると、かなり数があったはずのお饅頭がきれいさっぱりなくなっている。慌てて天火の顔を見ると、口元にあんこをつけながら最後の一個であろうお饅頭も手に持っているではないか。じと、と恨めしげに見つめていると天火はカラカラと笑い「はいはい、半分こな」と、私が言葉を発するより早く、半分にちぎったそれを口に入れてきた。なんでもう少し残しておいてくれなかったのか、と言いたくなったけれど目の前で「これうまいな」と笑う天火を見ていたらなんだか怒る気も失せてしまった。まあ喜んでるみたいだし、いいか。
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