※石切丸が病んでる
※刀剣破壊描写あり
甘えていた。そしてなにより私自身の考えが甘かった。頬を撫でてくる石切丸が恐ろしい。彼の瞳の澱みに寒気がする。これも全て私が招いた結果だというのなら、やはり私が責任を負うしかないのだろうか。
彼はいつも私の味方だった。本丸内で意見が分かれても、どんなに些細な出来事だったとしても、彼は常に私の肩を持った。だから自然と石切丸に甘えるようになって、石切丸もそんな私を甘やかし受け入れてくれていた。何かあっても「許して」と謝れば、必ず「ああ、君を許そう」と笑ってくれた。だから私は底なし沼に沈んでいくように彼に依存していった。
そんな私を見かねたのか、初期刀の蜂須賀虎徹には何度か注意されたことがある。石切丸には気をつけたほうがいいと。いくら相手が神とはいえ、取り返しのつかない事態にならないように接し方は考えるべきだと彼は言った。今にして思えば蜂須賀はどこかでこうなることを予想していたのかもしれない。だけどそのときの自分はとても愚かで、危険なことなんて何も起こるはずがないと思っていた。だからどれだけ注意をされても適当に聞き流してしまっていた。もし、あの注意を真剣に受け止めて行動していれば。今とは違う未来があったのかもしれない。
「ひっ、ゆるして……石切丸」
「ああ、泣かないでくれ」
「お願いだから本丸に帰して」
「さて、今日までに私は名前を何度赦しただろうね」
「え?」
「私はこれまで君を充分に赦してきた」
「いや、来ないで、」
「今度は君の番だ、名前」
神様は見返りを求めないなんて一言も言っていないだろう。石切丸が私を抱き寄せ、耳元でそっと囁く。安心できる場所だったはずの腕の中も、今はどうしようもなく恐ろしくて。ごめんね蜂須賀、私がもっとあなたの話に耳を傾けていれば。涙で揺れる視界の端で、折られた蜂須賀の刀身が鈍く光っていた。
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