やっと仕事が終わった。日付けなんてとっくに変わっている。スマホで時間を確認しながら、あと八時間もしないうちにまた会社に戻ってこなければならない現実に吐き気がした。一刻も早く不労所得だけで生きられるようになりたい。そんなことを考えながら会社を出ると、私と同じようにくたびれている背中を見つけた。
「独歩、待っててくれてありがとう」
「……ああ、名前。お疲れ」
観音坂独歩。私の双子の兄だ。独歩の会社はここからそう遠くない場所にあるので、帰宅時間が被りそうなときはこうして迎えに来てくれるのだ。
「独歩もお疲れ様」
「ありがとう」
「……」
「……」
「……」
「……」
二人揃って体力・精神力共に限界である。会話をする元気もなく、無言で家路を急ぐ。隣を歩く独歩を見上げれば、また隈が濃くなっているような気がした。ちゃんと夜眠れてるのかな。今度同僚に教えてもらった低反発枕勧めてみよう。
「……あ」
「?」
独歩が何かに気がついたようで遠くを指差す。こんな時間に何だろうとそちらを見れば、見覚えのありすぎる金色が目に入る。
「独歩!名前!」
向こうも私たちに気がついたようで手を振りながらこちらへ駆けてきた。疲れ切った今の私に一二三は些か眩しすぎて、思わず後ずさってしまう。
「観音坂ツインズお通夜帰り? すっげー負のオーラ出てるけど」
「いや、今仕事帰り……」
訂正する気力もわかなくて、疲れ切ったような独歩の言葉に頷くのが精一杯だった。
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