「名前、俺様が好きなんだろ」
私の隣でテレビを見ていたエクボがぽつりと呟いた。何を今更、と思うような質問に「うん」と即答する。
「それならナニされても文句言わねえよな?」
腰を抱き寄せられてぴったりと体が密着する。少しでも動けば唇が触れそうな距離で、エクボが意地の悪い笑顔を浮かべている。キスはしてくれないらしい。試されているんだろうか。こう見えてもエクボは頭が切れるし、何かを企んでいても不思議じゃない。でも残念ながらそんな彼の思考を読み取れるほど私の頭は良くないし、先程の問いに対する答えも出てしまっている。
「エクボにならいいよ」
「お前なあ……もっと自分を大切にしなきゃ駄目だぜ」
自分から試すような言葉をかけてきておいて何を言っているんだ、この悪霊は。やっぱりエクボの考えることはよくわからない。
「大切にしてるけど」
「わかってねえなぁ」
「何もしないの?」
ちょっかいの一つや二つかけられると思ったのに、なんだか拍子抜けしてしまった。おいで、エクボ。腕を広げて待っていると大人しく腕の中へやって来てくれた。
「まあこれくらいなら構わねえか」
「ふふ、うれしい」
私よりもずっと大きなその体を抱きしめていると、幸福感で胸が満たされていく。今日のエクボはちょっと様子が変だ。こんなに近くにいるのにまったく手を出してこないなんて、悪い物でも食べてしまったのだろうか。でも、たまにはこんな夜も悪くないなぁ。エクボをぎゅっと抱きしめながら「あいしてるよ」と囁いた。
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