僕は繰り返し確認する。彼女が生きていることを。
確認するのは朝でも昼でも夜でも、いつでも構わない。だけど、ちゃんと生きている姿を見ないと不安でたまらなくなる。それはきっと、彼女が生死の境を彷徨う姿を目の前で見たからだろう。
今でも覚えてる。高熱に浮かされて、何度も嘔吐して。意識もはっきりしなくて救急車に運ばれていく名前さん。熱くらいで大袈裟な、と思うかもしれないけど、当時小学生だった自分にはその姿はとても強烈に焼き付いて。もう会えなくなるかもしれない。いなくなってしまうかもしれない。そのことがとてつもなく恐ろしかった。
「おはよう、茂夫くん」
「あ……、名前さん。おはようございます」
名前さんの家は僕の家から三軒先にあって、両親同士の仲も良かったので物心ついたときからよく遊んでもらっていた。その関係は中学生になった今も変わらず続いている。
「今日は早いですね、名前さん」
「そうなの。今日は一限から授業だから」
ふわあ、と欠伸をして眠そうに目を擦る名前さん。朝に弱いのも昔から変わっていないようだ。そういえば小学生の頃、夏休みに律と二人で名前さんをラジオ体操に連れて行ったりしたっけ。懐かしいなぁ。
「じゃあ、私はこっちだから」
「はい」
別れ道まで来てしまった。大学は中学と逆の方向にあるから、ここで一度別れることになる。
「あ。放課後はまた霊幻さんのとこでバイト?」
「多分そうです」
「じゃあ私も大学終わったら寄るね。差し入れ持っていくから期待してて」
「わかりました」
手を振る名前さんを見送って、僕も学校に向かって歩き出す。ああ、よかった。今日も彼女は生きている。先程まで傍にあったぬくもりを思い出し、小さく安堵の溜め息を零した。
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