ラインも電話も通じないまま五日が経った。普段の名前なら三日に一度くらいは事務所に顔を出すはずが、それもない。ラインにすぐ反応するはずの名前があまりにも無反応で、なんとなく嫌な予感がした俺は名前の部屋を訪れていた。貰っていた合鍵で部屋へ入るが室内は真っ暗だ。留守か?いや、でも靴はあったしな。
「おーい、生きてるか」
電気をつけると、床には服が散乱し、テーブルの上には空になったペットボトルと缶コーヒーが所狭しと並んでいるのが見えた。
「……れーげん、さん?」
「うおっ!? お、お前驚かせるなよ……って顔色悪いぞ。大丈夫か」
ベッドからだらりと伸びてきた手に思わず驚いてしまったが、幽霊でもなんでもない。正体はくたびれた名前だ。しかも今日はいつになく顔色が悪い。真っ青のような……いや、真っ青というより赤紫に近いだろうか。
うなだれる名前の額に触れれば、想像以上の熱さに慌てて手を離す。凄い熱だ。いつからこんな状態になってたんだ。
「……た」
「あ?」
「……おなか、すい、た」
ぱたり。ベッドに突っ伏し、俺を掴んでいた手が落ちていく。何かないかと急いで冷蔵庫を開けたが、そこは見事なまでに空っぽだったので急いで近場のコンビニへ走った。
「食べられそうか」
「はい。ありがとうございます」
額には冷えピタ。手元には出来立ての雑炊。テーブルには買ってきたばかりのスポドリとゼリーも並べてある。
「いくら連絡しても繋がらないと思ったら倒れてたとはな……俺が来なかったらどうするつもりだったんだよ」
名前の不摂生は今に始まったことじゃないが、働き始めるとそれがますます悪化する。ストレスがたまると胃が食べ物を受け付けなくなるのはまだ治らないらしい。飲み物は摂取できるが、それだけではどう考えても栄養が足らない。俺もあまり人の生活をとやかく言えるタイプじゃないが、それにしたってこいつの場合は目に余る。
「一足先にあの世に行ってたかもしれませんね」
「笑えない冗談はやめろ」
「いひゃい」
ぎゅううと頬を抓る。しばらく一人にしておいたらぽっくりあの世に行ってました、なんて名前なら考えられない話じゃない。簡単に想像できてしまうのが我ながら恐ろしい。
「……なんだか霊幻さんって」
「?」
「お母さんみたいですね」
「あのなあ」
「霊幻ママ」
「ママはやめろ。一万歩譲ってもそこはパパだろ」
真面目に心配してるのがあほらしくなってきた。誰がお母さんだ。
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