「……私はまだ人として、正しく生きていられてる?」
腕の中で小さくなっているマスターが問う。震える声音は普段の彼女からは想像もできないほど弱々しい。
「勿論よ。あなたは正しく人間として生きている。それは私が保証しましょう」
「……そっか」
納得しているのか否か。抑揚のない声で返事をして、名前は黙り込む。"正義"や"悪"なんて、置かれている立場と見方次第でいくらでも変わる。一方から見れば正義でも、別の側面から見れば悪だったりする。それでも、名前の進んでいる道は悪ではない。少なくとも私はそう思っている。
「ねえ、メディア」
「何かしら」
「もしもの話だけど」
「ええ」
「私が道を間違ってしまったら、そのときは」
「……わかっているわ」
だからその先は口にしないでちょうだい。名前の頭を胸元へ更に押しつける。むぐ、と少しばかり苦しそうな声がしたが構わず抱きしめる。頭では理解している。それでも今回の召喚においては"裏切りの魔女"になりたくないと思う自分がいて。か弱く、今にも崩れ落ちてしまいそうな妹分を、私は自覚している以上に愛しているらしい。
prev next