SSS other | ナノ
×
BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -


「及川せんぱ〜い!」

 下校途中によくある、女の子たちからの黄色い声。徹が応えるように手を振ると、きゃあきゃあと嬉しそうにはしゃいでいる。こんな光景もすっかり見慣れてしまった。

「ねえ」
「ん?」
「名前は嫌じゃないの」
「何が」
「俺がああやって声かけられたりするの」
「別に。いつものことじゃん」
「そうじゃなくてさあ〜」
「だって徹かっこいいし、声かけたくなる気持ちはわかるから」

 ちょっと面倒くさいところもあるけど徹がかっこいいのは本当だ。バレーも上手だし努力家だし、頭もいいし、顔もいいし、性格もいい。これで人気がないほうがおかしいだろう。

「徹?」
「……名前のそういうところ、本当にズルいよね」

 さっきまでの賑やかさはどこへやら。そっぽを向いた徹が私の手を引いて歩き始める。その手がいつもより熱い気がしたのは、きっと。

prev next