「及川せんぱ〜い!」
下校途中によくある、女の子たちからの黄色い声。徹が応えるように手を振ると、きゃあきゃあと嬉しそうにはしゃいでいる。こんな光景もすっかり見慣れてしまった。
「ねえ」
「ん?」
「名前は嫌じゃないの」
「何が」
「俺がああやって声かけられたりするの」
「別に。いつものことじゃん」
「そうじゃなくてさあ〜」
「だって徹かっこいいし、声かけたくなる気持ちはわかるから」
ちょっと面倒くさいところもあるけど徹がかっこいいのは本当だ。バレーも上手だし努力家だし、頭もいいし、顔もいいし、性格もいい。これで人気がないほうがおかしいだろう。
「徹?」
「……名前のそういうところ、本当にズルいよね」
さっきまでの賑やかさはどこへやら。そっぽを向いた徹が私の手を引いて歩き始める。その手がいつもより熱い気がしたのは、きっと。
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