最期に見るものは師匠の顔がいい。私を拾って育ててくれた人。生きていく知恵と技術を与えてくれた人。私が喜んで尻尾を振るのは生涯であの人だけだ。
「……マ、キマさ、」
「ボロボロだね。助けが必要かな」
勝てなかった。契約していた悪魔もやられて、自分の身体もぐちゃぐちゃで。血みどろになった身体はきっともうすぐ死ぬのだろう。不思議なことに痛みも感じない。一般人が見れば逃げだすであろう状態の私をマキマさんが屈んで見下ろしている。周囲の音が遠ざかっていく最中、口をパクパクと動かすと、マキマさんがさらに距離を詰めて耳を傾けてきた。
「いらない。私は、岸辺さんの、犬なので」
意識が飛んでいく直前、笑って舌を出す。この世の何もかもを思い通りに動かしているかのような彼女への小さな反抗。マキマさんの聞いたこともない笑い声を最期に、私の人生は終わった。
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