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テーマ「推しとの恋」
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 今日は朝から雨だった。降り続く雨はしばらく止みそうにない。悪天候につられるようにズキズキと痛む頭が鬱陶しい。休日なら薬を飲んで横になって過ごすけれど、あいにくと今日は平日で、鎮痛剤を飲んで仕事にあたっている。街のパトロールをある程度済ませたところで空き家の軒下にしゃがみ込んだ。あー、もう動きたくない。

「ほれ、ウヌの好きなドブじゃ」
「……え」

 軒下で少し休んでいこうと話すと「小銭を寄越せ」とパワーちゃんに頼まれたので適当にお金を渡したのは、ついさっきのこと。目の前に差し出されているのは私の好きな缶コーヒー。パワーちゃんを見上げると「何じゃ、いらんのか?」と首を傾げている。

「私にくれるの?」
「だからそう言っとるじゃろ。ワシはドブは飲まん」
「ありがとう、パワーちゃん……」

 私がいつも飲んでいるものを覚えていてくれたこと。彼女が私を気遣ってくれていることがどうしようもなく嬉しくて頬が緩んだ。


 初めてパワーちゃんとバディを組んだ頃、彼女は片頭痛持ちの私が頭痛に悩まされるたびに「人間の苦しむ顔を見るのは最高じゃな!」とよく笑っていた。この子と仕事なんてやっていけるのだろうかと何度不安になっただろう。それでも長い時間を一緒に過ごしていると、それなりの関係が築けるもので、気がつけば私はパワーちゃんとバディを組むことにどこか安心すら覚えるようになっていた。たまに暴走したりイタズラのようなこともされてはいるけれど、慣れてしまえば案外それも可愛く思えてくるのだ。

 涙ぐみながら飲んだ缶コーヒーは、今までで一番おいしかった。


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