低硬度。役立たず。無能。
それが私の持っている数少ない肩書きだ。
強くもなく、かといって器用なわけでもない。そのくせ無駄に運だけはよくて、何度も月人に粉々にされているにも関わらず、私は今も生きている。強くて優秀な仲間が何人も月に行ってしまったのに、役立たずの私は変わらずここにいる。普通逆だろう。
「優秀な皆じゃなくて、私がいなくなればよかったのに」
「また愚痴か」
「……ボルツ。独り言だから気にしないで」
「名前がいなくなって状況がよくなるのなら、僕がとっくに砕いてる」
「それって」
「くだらないことを考えてる暇があるなら、剣の腕でも磨いたらどうだ」
ぽいっと放られた剣を慌てて受け取った。これはもしかしてボルツが修行に付き合ってくれる流れだろうか。無駄を嫌うあのボルツが。私のために?
「……少しだけ自惚れてもいいのかな」
私はここにいてもいいのだと、そう思ってもいいのかな。
「あ?」
「なんでもないです」
すたすた歩いていくボルツの背中を追う。低硬度だし、役立たずだし、無能なところはすぐには変えられない。でも、"時々は役に立つ無能"くらいにはなれるように頑張ってみるのも、悪くないのかもしれない。
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