死後の世界は信じていない。だから人の死後、魂がどこへ行くのかとか天国や地獄がどうとか言われてもわからない。心臓が止まって、脳が死んで、意識を失ってそれで全部終わりだ。
それでも自分の命が終わったあと、一瞬でも私のことを思って泣いてもらえることができたのなら、このちっぽけな人生にもたしかに意味があったのだと思える気がするのだ。
「私が死んだら泣いてくれる?」
隣を歩くアキくんを見上げると、眉間にこれでもかというほど皺が寄っていた。わかりやすい男。それが可笑しくて声を出して笑うと頭を小突かれた。
「くだらないこと考えてる暇があるなら仕事に集中しろ」
「大事なことだよ。だってアキくん以外に泣いてくれそうな人いないし」
私の家族や親類はみんな銃の悪魔に殺されている。おおよそ友人と呼べる人間もいない。例外があるとすれば師弟という関係で縁が続いている岸辺さんだけど、あの人に涙は期待できない。上司のマキマさんも論外。そうなるともう泣いてくれそうな人間は同期であるアキくんしかいなくなる。
「そういうわけ」
「何がそういうわけなのか全然わかんねえ」
「もう一回最初から説明しようか?」
「しなくていい」
「え〜」
結局その話は空気を読まない悪魔が現れたせいで中断された。手際よく悪魔の息の根を止める背中を眺めながら、やっぱり泣いてもらうならアキくんがいいなと思った。
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