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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -


※千鶴≠夢主
 夢主は伊東家の近所に住んでる

 伊東さんが時折兄に重なって見えることがある。それはきっと病弱で穏やかだった兄と、彼が纏う雰囲気が似ているためだろう。兄は私が幼い頃に別の家に引き取られていってしまい、もう十数年近く会えていない。たしか兄の年齢も伊東さんとそう変わらないくらいだったはずだ。時折送られてくる手紙の通りなら、背丈も彼と同じくらいになるだろう。だから私はなおさら、伊東さんに兄の面影を見出してしまうのだ。


「あ。兄上!」

 言葉を発してから、慌てて自分の口を抑えた。しまった、間違えた。私の呼びかけに振り返った伊東さんは目を丸くして黙っている。

「あ、いえ、ごめんなさ――」

 間違えましたと謝るよりも早く、彼がこちらへ近づいてきた。慌てる私の手を取り、伊東さんは柔らかく微笑む。

「名前さん、どうしました?この兄に何か用事でも?」
「えっ」

 今度は私の方が面食らってしまった。さすがに怒られることはないだろうけど、嫌味のひとつでも言われると思ったのに。私の予想に反し、彼の反応はとても優しいものだった。今もまんざらでもない表情で、じっとこちらの言葉を待ってくれている。

「あの、」
「?」
「一緒にお茶でもどうかと思いまして……」

 美味しいお茶菓子を頂いたところだったので、と言葉を続ける。呼び間違えた恥ずかしさで、あやうく用件を忘れてしまうところだった。恐る恐る伊東さんを見上げると「ありがとう。私もちょうど一息つきたいところでしたのよ」と、また穏やかに笑いかけてくれた。

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