静かな部屋に自分の咳き込む音が響いている。季節の変わり目に体調を崩すのはこれで何度目になるだろう。生活習慣や健康には人一倍気をつけているのに、それを嘲笑うかのように体は言うことを聞かなくなる。生まれつきの虚弱体質は改善が難しい。頭ではわかっていても、寝込むたびに情けなくて、苦しかった。
それに、私が寝込んでいると弟たちに余計な心配をかけてしまう。ただでさえ忙しい彼らの負担になるようなことだけは避けたいのに……と考えていたところ、ドアをノックされた。ほら、来てしまった。
「姉さん、具合はどう?」
私よりも真っ白、というよりはやや青白い顔をしている弟―――雪男が枕元にやって来た。私の額に手を当てながら「薬は飲んだ?」「何か食べた?」「熱は?」と矢継ぎ早に質問をすることも欠かさない。こうなることがわかっていたから黙っていたのに、今回もどこから聞きつけて来たのだろう。気持ちはありがたいけれど、私に貴重な時間を使うより、もっと自分を労わることに時間を割いてほしいのにな。
「大丈夫だよ、雪男。ありがとう」
手を伸ばし、何度か頭を撫でていると照れたように視線を逸らされた。
「雪男は可愛いねえ」
「……そんなことを言う物好きは姉さんくらいだ」
「そうかなあ」
「そうだよ。あのさ、」
「ん?」
「何かあったら、ちゃんと僕を頼ってよ」
雪男の大きな手が私の手を握った。やさしく包む、というには些か強すぎる力で。
「雪、」
「名前姉さん」
まるで縋るような、子供のような声音で雪男が呟いた。父さんが亡くなってからだろうか。神経質なほどに真面目な弟が、不安定な一面を見せることが増えたのは。今だって病人の私より、雪男の方がずっと倒れてしまいそうに見えた。
「大丈夫。私なら雪男が来てくれたおかげで、もうすっかり元気になったよ」
空いていた方の手で雪男の頭を抱え込むように抱き寄せる。この子が少しでも生きやすくなりますように、と願いながら。
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