なんで。どうして。そればかりが頭の中を駆け巡る。
「どうして顔を逸らすのですか」
「顔を見たくないからです」
何を間違ったのか、私は理事長室であのメフィストさんに壁ドンされている。この上ない悪夢だ。いつものようになんてことのない用事で呼び出され、気がつくとこうなっていた。来なければよかったと後悔しても、もう遅い。
「さすがにそれは酷くありませんか?」
「メフィストさんの顔は心臓に悪いです」
「あなたにも妙齢の娘らしい一面があったとは、いやはや驚きましたな」
「違います。毎回死ぬ前に顔を見てるから色々思い出すだけです」
私の死の間際には必ずメフィストさんが居合わせている。今にも死にそうな私の前でこの悪魔は笑うのだ。そのためか、メフィストさんを間近で見ていると死が近づいてくるような気がしてどうにも落ち着かない。
「ほう、それはそれは」
「だから近寄らないで……!」
「死に際にこの私の顔を見られるなんて、あなたは幸せ者ですよ」
近い。とにかく近い。少しでも動けば唇が触れあってしまいそうな距離で、悪魔が笑う。
「今回も最期は私が看取ってあげますから、安心してください」
「メフィストさんよりエンジェルがいいです」
「却下です」
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