聖十字学園の学食はとにかく値段が高い。ここは大層なお金持ち学校なので、学食も名のあるシェフが手掛けているそうだ。裕福な方々には何ら問題のない金額だろうけど、ありふれた一般家庭の私にとってはかなり痛い出費だ。たまに食べるくらいなら問題もないけれど、毎日となると話は変わってくる。学食での昼食を早々に諦めた私は購買部に向かった。
「?」
購買に向かう途中、調理実習室から漂ってきた匂いに足が止まる。なんだろう。物凄く美味しそうな匂いがする。そのまま引き寄せられるように、そっと扉に手をかけた。
「奥村くんは料理上手だね。どれも凄くおいしいよ」
「そうか? まだおかわりもあるぞ」
「いただきます!」
目の前には学食に引けを取らない和食料理と、奥村くんがいる。彼は私と同じで学食の値段についていけず、理事長に許可を貰ってここで自炊をしていたそうだ。そして匂いに釣られて現れた私に驚きながらも「……食うか?」と声をかけてくれた聖人でもある。お腹が空いていた私はその言葉にありがたく甘えて、こうして二人並んで昼食を食べていた。
強制的に転校させられてからというもの、私はあの悪魔に振り回される日々が続いている。そのせいで気も休まらず、疲労も溜まる一方だった。
「奥村くんのご飯のおかげで元気出てきたよ」
「なんかよくわかんねーけどさ、飯ならいつでも作るぜ。だからそんな落ち込むなよ」
「うん、ありがとう」
そういえば誰かとこうして食事をするのは久しぶりだった。友人たちは例の食堂で食べることが多いため、昼は自然と別々に食べるようになっていたからだ。
「奥村くん、お願いがあるんだけど聞いてくれる?」
姿勢を正して奥村くんに向き合うと、彼も慌てて同じように背筋を伸ばして私を見た。
「もしよかったら、私と友達になってください」
出会ってまだそんなに時間は経っていない。でも、こんなに気楽に話せる相手と学園で出会えたのは初めてだった。もっと奥村くんと話をしたい。もっと彼のことを知りたいと思った。
「え、お、俺!?」
「うん」
「あー、その、だな……」
「駄目?」
「駄目じゃねえ!その、俺も同じこと言おうと思ってたっつーか……」
「それじゃあ、」
「おう。改めてよろしくな、名前」
「こちらこそよろしくね、奥村くん!」
彼につられて私も笑顔になった。奥村くんがいるならこの学園生活にももう少し希望が持てそうだ。差し出された手を握り、固い握手を交わす。
「……」
ゆらゆら。奥村くんの後ろから悪魔の尻尾に似たものが揺れて見える……が、とりあえず何も見なかったことにした。今はとにかく新しくできた友人との昼食が最優先だから。うん、何も見てない。絶対見てない。
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