aoex | ナノ
×
「#寸止め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



 総理大臣の記者会見が終わり、メフィストさんが檀上に立った。数日前のテレビ出演の際と同様にお決まりのポーズを決めて、悪魔についての話を始める。私はシュラと一緒に"メフィストフェレスのSP"という何とも気乗りしない仕事を任されていた。

 ふ、と。楽しげに悪魔を説明する彼の向こうに、奥村雪男が立っているのが見えた。ただ立っているだけなら構わない。だが、彼の手に握られている銃を見て血の気が引いた。隣にいるシュラもそれに気がついたようで、こちらにちらりと目配せをして一歩を踏み出した刹那、空を割くような発砲音が会場に響き渡った。


「メフィストさん!」

 ヴァチカンに連絡するシュラを横目にメフィストさんに駆け寄った。撃たれた額だけではなく、吐血もしている。かなり長い付き合いになるけれど、これほど弱った姿を見たのは初めてかもしれない。心臓がどくりと嫌な音を立てた。

「これは傑作だ。あなたのそのような顔が見られるとは」

 そのような顔、とは。今の自分がどんな顔をしているのか全くわからないが、目の前に横たわる悪魔が私を見上げて笑っているので、きっと酷く情けない顔をしているのだろう。

「はは、何を泣くことがある。あなたにとってみれば、今の私の状態は好都合ではありませんか?」

 メフィストさんの手が弱々しく頬に触れてきた。彼に指摘されて初めて、私は自分が泣いていることに気がついた。悲しいのか辛いのか、それとも恐ろしいのか。己の意思とは関係なく涙が流れていく。メフィストさんはそんな私の涙を拭うと、力なく手を下ろした。

「馬鹿なこと言わないでください。こんな終わり方、私は嫌です」

 零れ落ちようとする涙を袖で乱暴に拭った。これまで何度も私の人生を弄んできた悪魔に、こんなところで簡単に死なれてたまるものか。彼には言いたいこと(主に文句)が山ほどあるのだから。

「大丈夫です。どんな手を使っても絶対に死なせませんから」
「いいですね、その表情。悪魔より悪魔らしい」
 



prev next